今月の話題
今月の話題 梅

酸味の代表薬 梅のお話し

ウメ(烏梅)梅は健康のバロメーター

梅は中国でも日本でも、歳寒の三友、益者三友のおめでたい植物の三幅対である松竹梅の中で、ただひとつ早春の花木として取り挙げられ、観賞用としては、江戸時代以来、盆栽や庭園樹として、おびただしい品種が作出されている。それにもまして、ウメは食用、薬用、染織用として、古代から有用樹木として賞用されている。
漢方薬でも食物でも、その特有の味の酸、苦、甘、辛、鹹の五味は、それぞれ人の臓腑器官の保全に役立つもので、梅は酸味の代表である。酸味の天然物は、肝臓、胆嚢の機能や、眼、筋肉の作用を促進する薬味で、血液の浄化と心臓循環器に役立ち、呼吸器と大腸、皮膚、頭髪を助け、補腎の薬味でもある。そのことから、古来塩と梅がほどよい加減のことを、調味の極意とし、健康のバロメーターとし、体調のよいことを塩梅がよい、体調を害したとき塩梅がわるいといってきた。


梅の産地と種類

ウメは中国原産で、江南地方や四川、福建、広東、湖南の温暖多湿の地に多く、日本には奈良時代に渡来して、奈良、三重、和歌山に多産する。食用種では、大果の種類に豊後梅があり、肉厚く種核が比較的小さい。これは九州地方に多く、肥後梅、越中梅とも呼ばれている。小果のシナノコウメは甲州梅とも呼ばれ、信州、甲州に多い。
また紅染め、紫染めの媒染剤として必須の酸であるから、山形や京都周辺に梅林が残され、梅皮染めの加賀梅染め、琉球染めの原料としてその生産地にも見られる。
食用には、梅干を筆頭に、梅酒、梅酢、煮梅、塩梅、青梅粕漬や梅びしお、のし梅、密漬、砂糖漬などに賞用されてきた。 薬用や媒染用には、鳥梅(ふすべ梅)として貯蔵される。ふすべ梅は、青梅か半黄の梅の実を煙でくすべて黒くした梅の燻製で、藁灰のあくに浸し、籠に盛ってくすべたものは光沢や潤いがよく虫がつかない。これは魏末斉初の斉民要術(六世紀)に見られる鳥梅の製造法で、和歌山、三重でもこの方法で生産された。
ウメの語源は、植物よりは加工品の鳥梅(黒い梅)の方が渡来が先行したからだと加茂真淵は記している。最近では梅干を干したものに煤をつけた偽品が見られる。


梅の酸味と薬効

梅の実の酸味はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸などの有機酸で、乾果ではクエン酸十九%、リンゴ酸一・五%に達する。グラム陽性、グラム陰性腸内細菌に対して抑制作用があり、各種真菌に抗菌作用があるので、下痢や食中毒に応用される。
薬用に梅核、白梅、鳥梅の三種があるが、日本では鳥梅だけが使われている。清涼収斂薬で、止渇、止痢、回虫駆除の効があり、解熱、鎮咳、鎮嘔、去痰の作用がある。また鳥梅は、擦傷や切り傷に対し、殺菌と肉芽の形成促進作用があるので、内用にも外用にも使われる。
梅と食酢以外には、漢方薬では五味の中で、酸味薬は極めて少ない。主要漢薬三七〇種余を収めた神農本草経の中で十九種(四.三%)、漢方の聖典といわれる傷寒論と金匱要略に処方される漢薬一五六種でもわずかに八品(五.一%)で、その使用頻度もまた稀である。それは酸の給源となるのは食酢以外に梅干し、梅肉、梅肉エキス、梅酢、鳥梅が主流を占めていて、これらは中国家庭での常用品で、酸の欠乏がなかったことを物語っている。
梅の酸味は、食品の鮮度を保ち、腐敗を防ぎ、脂肪を中和し、淡白にして、口中を爽やかにして食味をすすめ、疲労や夏まけの原因となる血液の酸性化を弱めるアルカリ性食品の雄でもある。漢方の食養では、薬物に欠けているだけに、酸味の給源としての梅を忘れてはならない。