今月の話題
今月の話題 桃

今回は三月の桃の節句にちなんで桃を選んでみました。

モモ(桃仁・白桃花・桃葉)悪鬼を追う厄除けの果樹

 桃は中国西北部の黄河上流地方原産の果樹で、早くから日本に伝わり、果樹としても、花木としても数十種の品種が残されている。  中国では漢時代から、桃は悪邪を追い払うものとして厄除けの信仰があり、これが日本に伝わり、上代には新年の剛卯や節分に鬼を射る桃弓の行事があった。

 日本では国産の花木・椿も破邪尚武の性格があるとされたことから、天平時代には桃を椿に代え、卯日椿杖の正月初卯の厄除け行事が宮廷で行われ、以来、今日までは神社の正月行事が伝わり、京都の上賀茂神社や東京の亀戸天満宮では、今日でも開運厄除けの卯杖が授与されている。

 中国の油桃(光桃)に属するわが国在来種のツバイモモは、果実が無毛で光沢があり、椿の味に似ているところから、ツバキモモといったのが、音便でツバイモモとなったといわれる。普通の桃よりやや小型で結果も遅く、果色の赤いものをツバイモモ、赤くない品種をアオツバイと呼んでいる。この語源はその形質だけでなく、桃と椿が持つ共通した厄除け、悪鬼払いの性格からも起因するものと考えられる。

 桃花や桃仁は、人体の悪血や寄生虫を排除し、婦人の生理の滞りを除く特性を持っているので、桃から生まれた桃太郎の鬼退治も、この伝承と信仰から創作されたものといえるし、雛祭りの桃の節句が女性の節句であるのも、悪鬼や病邪、とくに血毒を駆逐する薬用としての桃の効用から始まった行事といえる。


桃仁・桃花・桃葉の薬効

 桃は古く神農本草経(3世紀)の下品に「桃核仁」の名で収載され、薬性苦平の血剤で、オ血(古血)、月経閉止、腹中の腫瘤や邪気を主治し、小虫を殺すと記され、以来、今日まで、漢方薬では必須の重要生薬である。

 桃仁は血をめぐらし、腸を潤し、大便を通じる。オ血の滞り、月経閉止、打撲による鬱血や疼痛、産後のお血停滞によるしこりや、血行不順による関節痛に、牡丹皮や大黄と共用して応用する。一日用量3〜5g。

 中国では種子ばかりでなく、桃実、桃花、桃毛、桃葉、茎、白皮、桃膠、桃嚢虫など、あらゆる部分を薬用に使っている。わが国では現在、桃仁と白桃花(桃の白花の乾燥品)のみで、民間で桃葉が浴用に使われるだけである。

 白桃花は利尿瀉下薬で、水腫や便秘症に新鮮な花3〜5gを煎用する。
桃葉は嘔吐下痢で腹痛のある時、葉の搾り汁を白湯で飲み、下痢の時温湯に浴し、桃の葉で身体をこする。また腹痛には桃葉を煎じて温浴するなどの療法が、民間で行われている。


桃仁と杏仁の薬効の相違点

  桃仁は脂肪油40〜50%と、杏仁と同様アミグダリン1.5gを含むが、その含量は杏仁の半量で、杏仁が気管や皮下の水滞が肺や呼吸器に異常を示す上半身と体表のひずみを去る水剤であるのに対し、桃仁は対照的に下半身と腹部に異常が現れる血毒を除く、駆オ血薬である。

 経絡では足の厥陰肝経にひずみが現れるのを解除する。足の母指から足の内面中央を上行して、陰部から下腹部を通り、肝臓に帰属し、胆嚢をまとい側胸部に散布し、頭頂に至る線上に発現する異常を除くものである。

 牡丹の項で記した婦人科の炎症性疾患や外傷、内出血などに広く応用される桂枝茯苓丸や便秘と神経症の激しい疾患に賞用される桃核承気湯など、著名な漢方剤に配合される。

 水戸藩の侍医・原南陽は、桃仁と牡丹皮を主薬とする桂枝茯苓丸を軍陣第一の救急薬として、甲字湯と名づけ、刀傷、矢傷、打撲傷などに備えることを、わが国軍陣医書の嚆矢である「砦草」に提唱している。