今月の話題
今月の話題 菖蒲(ショウブ)

病邪を皮膚や粘膜から発散させる芳香性健胃整腸剤

端午の節句と菖蒲

 三月三日の雛祭りは、だいり内裏雛を飾り、桃の節句でもあり華やかであるが、それに対して五月五日のたんご端午の節句は菖蒲の節句ともいわれ、男の子の節句で、大和男子らしく武者人形とショウブが飾られる。
ショウブの葉が剣状で中肋が剣刃の背のようになり、その字音が尚武と同じだから、何れも破邪尚武を象徴している。
ショウブの根茎はアサロン、カメラン、オイゲノールなどの芳香成分からなる精油約3%を含み、薬性辛温の気剤である。
百合、紫蘇、生姜などと同列の芳香性健胃整腸剤で、体表の皮膚と呼吸器や大腸から、病邪を発散させる薬能を持っている。
病邪を皮膚や粘膜から発散・駆逐する点では、桃仁や牡丹皮が体内の鬱血やオ血を排除するのと対照的であり、また悪邪を払う健康管理の薬草の年中行事が行われるという点で共通点がある。端午の節句にショウブを使ったことは、奈良時代、聖武天皇の頃からの記録があり、あやめ菖蒲かづらやあやめのまくら菖蒲枕、あやめおび菖蒲帯、あやめかたな菖蒲刀、あやめかぶと菖蒲兜、あやめのゆ菖蒲の湯(しょうぶゆ)、あやめのさけ菖蒲の酒(しょうぶざけ)、あやめぶき菖蒲葺などの慣習があったが、今日ではショウブの葉を家の軒下に挿して厄除けとする菖蒲葺と、浴湯に入れて血行をよくする菖蒲湯だけが残されている。
さらに旧暦の五月五日は、天皇・公卿間や神社では更衣の行事があり、庶民間では使用人に衣類を給する習慣があった。
『今日の晴着に風薫る、菖蒲浴衣の白重』
『ゆく末広の菖蒲酒、是れ百薬の長なれや』
これは安政六年(1859年)作の、今も流行している長唄「あやめ菖蒲ゆかた」の一節で、往時の風習を伝えている。

ショウブとアヤメの混乱

ショウブはサトイモ科の目立たない穂状の花で、古名アヤメグサ、アヤメと呼ばれたが、植物学上イチハツ(アヤメ) 科にアヤメがあり、その同類に花の美しいカキツバタやハナショウブがあって混乱を起こし、武者人形の飾りにもハ ナショウブがショウブに代わって用いられる。  漢方薬の世界でも、古代の菖蒲は、今日の白菖蒲(ショウブ)を記載しているが、近代セは石菖蒲(セキショウ)の方 が薬用では優位を占めていて、この可否はなお今後の研究に待たねばならない。

薬用の菖蒲とその産地

 ショウブは欧州やインドでも、芳香性健胃整腸薬として薬用に使われているが、漢方薬では白菖蒲と石菖蒲の二種がある。
白菖蒲は中国では湖北、湖南、遼寧、四川の諸省に産し、日本では千葉、茨城、福島、北海道、徳島諸県の野生品が出荷されるが、計画生産のため、水田に栽培されたこともある。
石菖蒲は水辺に自生するセキショウの根茎で、中国では四川、浙江、江蘇の諸省に産し、日本では静岡、徳島、香川、広島の諸県から産出する。園芸品種が多いが、いずれも薬用となる。
主成分のアサロンなどを含む精油約0.5%を含み、芳香があり苦い。
漢方では石菖蒲を賞用し、根茎の節が蜜で一寸(約3p)に九節あるものを良品としている。
鎮痛、鎮静、健胃、駆虫作用があり、古典では特にきゅうきょう九竅を通じ目を良くすることを強調している。
九竅とは体表の窓に当たる目、耳、鼻、口と尿道、肛門の九つの穴のことである。
古くから浴剤に賞用し、また体表を護る気剤とされた菖蒲の水浸液には、種々の皮膚真菌に対する抗菌作用が認められ、近代医学的にその薬効の一端が証明されている。
後漢時代の漢方薬の原典『きんきようりゃく金匱要略』には仮死状態を療する法、すなわち脈は打っているのに仮死状態になっている人を息吹返らす方法として、菖蒲根末を両側の鼻孔に吹き入れ、舌下に桂皮を付けることを記している。
民間では菖蒲を強壮剤とし、菖蒲酒を飲み、目薬として洗浄用に使用しているのも、古来からの本草の効果が伝承されたものと考えられる。