今月の話題
今月の話題 オケラ (蒼朮・白朮)

古来より使われている民間薬 オケラ

京都の年中行事の劈頭を飾る「おけら詣」

人波のおけら詣にうちまじり    秀好

京都の年中行事の劈頭を飾る「おけら詣」は、元旦寅の刻(午後4時)に始まる、祇園・八坂神社の削掛(けずりかけ)の神事である。
檜材を摩擦して聖火をつくり、削掛に移し、薬草オケラを加えて焼き、その火で新年の供物を調える。この祭事に、市民は除夜から参詣し、近ごろは大晦日の夕刻から、この神火を火縄に受け、元旦の雑煮を祝う火種とするため、長い火縄を持ち帰るのが、京の民家のならわしであった。
元旦の雑煮の前に出るお屠蘇の中にも、オケラが加えられているので、京都の正月はオケラで始まることになる。おけら火の神事は、祭神の水神に因んで、水を追い湿気を払う薬草オケラが、この火と水の信仰として伝えられているのである。おけら酒も授与されている。
オケラは古来、利水薬や芳香健胃薬として常用されてきた漢薬で、今日でも日本薬局方に収載され、健胃、消化、食欲増進、嘔吐、下痢、去痰や身体の痛みを止めるのに用いる重要生薬の一つである。

薬用のオケラとその産地

恋しくば 袖も振らむと 武蔵野の宇気良が花の 色に出なゆめ


万葉集に謳われた武蔵野のオケラは、キク科の多年生野草である。各地で自生しているので、江戸時代から東北、信州から畿九州・鹿児島まで、この根茎を採って、和蒼朮・焚蒼・和加根白朮などと呼んで、市販された。前二者は皮つきで、白朮は根の皮をって干したものである。

古方薬品考(天保十二年)の著者・内藤尚賢や本草図譜の著者・岩崎灌園によると、江戸時代には中国から渡来した薬用種のホソバオケラ(サドオケラ)が栽培され、佐渡ヶ島に産したことが記されている。
そこで、戦前に佐渡の栽培状況を調査したが、戦後ユキツバキを訪ねて再度佐渡に旅した時には、唄のおけさは盛んであったが、薬草のサドオケラの方は微々たる生産状況であった。
この渡来種は精油成分が多く、結晶性であるから、切り口に綿のように針状の結晶が見られ、芳香の強い優良種であるが、そのよさを知る漢方家が少ないのか、惜しいことである。
畑栽培で10a当たり、500〜600kgの収穫がある。
焚蒼は室内で燻蒸すると、湿気を払う効果があるから、書籍や衣料の湿気を取り、カビを防ぐ。洪水後の防カビ用に使われ、梅雨時の糊染めなどのカビ止めにも応用されてきた。壁や畳の湿気を取るのには、重宝な薬草である。

漢方薬では、人体の水滞・水毒を追う水剤中でも、最も使用頻度の多い漢薬で、消化管や体表に停留した水毒を、尿利によて体外に排除する。
とくに腎機能が減衰したために排尿が多すぎたり少なすぎたりして、浮腫、胃内停水、胃のつかえ、下痢、吐、口渇から失精、顔面や四肢の神経痛やしびれなどの症状に応用される。
煎剤では1日3〜5g、散剤としては、1〜3g服する。

江戸時代の古医学中興の祖といわれる名医吉益東洞は、当時京都に多く難症とされた神経痛やリウマチ患者に、蒼朮を配合た桂枝加苓朮湯や桂枝加苓朮附湯を創製し、一躍門前市をなす盛況を呈したと伝えられている。
今日のメニエル氏症候群や顔面経痛にも著効がある。
大陸型の皮膚がかさかさになる荒れ性の体質には、 ヨクイニン湯があり、肥満型で血証、便秘、炎症を伴うものには、防通聖散があるが、これらの痛みの治療薬には、申し合わせたように、どれもオケラが配合されている。