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ボタンとシャクヤクは、漢方では、病気の病の分野である肉体的なひずみを、それぞれ血毒(血滞)、水毒(水滞)の両面から、正常化する薬草の代表であることをそれぞれの項で述べました。 ユリは気毒、気の滞りという、現代薬では精神、神経の薬にあたる、無形の分野の補正薬である。ユリの語源は「大きな花が風にゆりうごく」、「鱗芽が多くより合う」、花が美しく栄ゆる」などから出たといわれ、鱗芽を乾した漢薬百合は、多量の澱粉とタンパク質、脂肪を含み、薬性は「甘平」で、消炎、鎮静、鎮咳、利尿薬として用いられている。 |
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漢方薬の原典といわれる「金匱要略」(後漢紀元217年・張仲景著)には、「百合病篇」があり、つきものでもあるのか、たたり祟りでもあるような現代医学でも始末に負えないような神経症、ノイローゼ、鬱病にあたる病像を百合病と名づけ、百合を配合した薬方で治療する項目が残されている。 楚々とした美女の姿を、「歩く姿は百合の花」とたたえたのは、繊細な神経、移り気な精神を安定させる百合の適応症を指示したものである。 中国の百合は、ユリ科の白花のユリで、唐時代から明の本草綱目に至るまでの文献まで、食用の巻丹(オニユリ)ではないとしている。 日本の江戸時代の漢方家たちは、邦産品では、関西地方に多く野生しているササユリを賞用し、関東に多いヤマユリは二級品としている。 ユリは細長い茎の先端に、比較的大きな花をつけるので、安定を欠き、一寸風が当たっても、少しふれても、ゆりうごくところから、他人に何かいわれても敏感にそれを気にしたり、些細なことでも心配したり、気にしたりする神経症を正常に戻す「気剤」としての応用を発見したと考えられる。 またユリの花は強い芳香を放つので、香高いものは、皮膚や頭髪、鼻、呼吸器、大腸に有効であるという、漢方の五行説の気剤の概念からも、その応用がひら拓けたものと考えられる。 |
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奈良県桜井市三輪町のおおみわ大神神社(三輪明神)は、大和国の一宮で、おおものぬし大物主大神と少彦名神を祭神とし、治病、製薬、酒造、結縁、開運の神とされ、4月18日の神事「鎮花祭」は、薬祭としても知られている。 それは三輪山のササユリの根とスイカズラ(忍冬)とを、神饌としてお供えされ、春の花の散る頃には、人の気がゆるみ、それによっておこる精神・肉体両面の病気の鎮圧を祈願するものといわれ、中国の漢方薬百合の応用と相似たものが見られる。 |
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さらに奈良市最古の神社といわれる率川神社では、例年ササユリの咲く6月17日に、三枝祭(三枝はユリの古名)、俗に百合祭と呼ばれる神事がある。 本社三輪明神の三輪山麓に咲くササユリの花がおびただしく集められ、このササユリの花で飾った酒樽=くろき黒酒、しろき白酒を神前に備え、百合の舞が献ぜられて、神をお慰めするとともに、疾病除けの祈願をする由緒深い優雅なお祭りである。このササユリは疾病除け、ことに精神心経病に霊験があるといわれ、梅雨期の鬱陶しさを払う気剤として、神酒とともに参詣客に授与されている。 近代科学は、この味覚の分野を、酒は百薬の長の教えにより、芳香性件に整腸薬やスパイス(香辛料)として発展させ、嗅覚の分野である香りを皮膚や頭髪の保健のための香粧品(化粧料)として受け継いでいる。 (渡邉武著) |