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薬用植物の世界でボタンとシャクヤクとは、分類学上では同科同属で形態もよく似ているのに、解熱、鎮静、鎮痙、鎮痛通経作用は見られても、その薬能は、ボタンは血毒症(オ血症)、シャクヤクは水毒症(水滞症)に顕著な働きがあるように、明らかな相違が認められることは前に述べた。 それと同じような自然界の妙が、同属のウメ、モモ、アンズにもある。烏梅は酸平で肝機能を補い、桃仁は苦寒で牡丹と同類の血剤(駆オ血剤)であるのに、杏仁は甘温で芍薬に類した水毒症(水滞症)を解除するといった違いである。 アンズは華北原産の果樹で、種子が甘く苦味の少ない「甜杏仁」と苦味が多く甘味の少ない「苦杏仁」とがあり、野生種にマンシュウアンズ、モウコアンズがある。 古くから日本に渡来し、栽培品にはアンズとホンアンズがあり、北地に適するため信州、甲州、東北地方に多い。 長野では善光寺の鐘の聞こえる地域にはアンズが栄えるといわれ、今日でも市内安茂里には杏花台が残り、更埴市では部落の屋根が杏花で覆われ盛観である。 |
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アンズは梅に似て酸味が強く、生食、乾し杏、蜜漬、砂糖漬、ジャムなど菓子や料理に用いられる。 中国では乾果に熱湯を注いだ「杏湯」が、養生薬として賞用されている。 薬用には苦杏仁を用い、杏仁油や杏仁水とし、油は食用、化粧油、ポマード、コールドクリーム、注射剤の溶剤、軟膏の基礎剤などに応用される。 種子の成分は蛋白質31、脂肪油63、水分4、糖分8、繊維25、灰分3%で、アミグダリン配糖体約3%を含む。鎮咳、去痰、利尿作用があり、水滞によっておこる咳や喘息、呼吸困難、身体の浮腫に応用される。 一日量3〜5g。風邪のとき投与される匂いの強い水剤は杏仁水が配合されたもので、漢方では手の太陰肺経の専用薬で、胸間の水毒を尿で駆逐し、肺と表裏の関係にある手の陽明大腸経にも働くので、腸燥や便秘にも効果がある。杏仁が肺経に入ると、胃のあたりから大腸をまとい上行して肺から気管、喉頭を通り、左右に分かれて手の脇の下から内面前側を通って、母指の末端に終わる線上の異常を除くことである。 喘咳には体表の護りの麻黄や桂枝を配合した麻黄湯、麻黄杏仁甘草石膏湯、桂枝加厚朴杏仁湯などの有名処方があり、便秘には麻子仁丸があり、慢性便秘や老人、病後の弛緩性便秘に賞用されている。 |
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豆腐といえば大豆蛋白を苦汁で固めたものが一般に知られているが、植物の種子の蛋白を軟らかい食品にしたものに、胡麻豆腐と杏仁豆腐がある。 胡麻も杏仁も大豆のように多食するものでないから、胡麻は吉野葛で、杏仁は寒天で固める。 杏仁5〜6個を湯につけて、皮を除き、よく乳化したものを、角寒天1本で固め、賽の目にきざんで、蜂蜜水に浮かべて食するものである。 北京や上海などの中華料理の点心(デザート)に供される杏仁豆腐は、染付けや赤絵の鉢に映えて美しく、脂気の多い料理の口直しによく、口中爽やかになり、音声を使う職業の人たちにも喜ばれる。 手軽にできる漢方料理であるから、家庭で試みられると子供達にも歓迎される健康食となる。 |