今月の話題
今月の話題 トリカブト(附子)

北門の守護役・附子(玄武)

北門の守護役・附子(玄武)

玄武は北方の守護神で、黒を象徴する。北は寒冷であるから、漢方では寒さや冷えによって風邪や腹痛、下痢、低血圧、神経痛、リュウマチなどを陰病と呼び、温熱薬である附子や烏頭を配合した漢方薬で中和して治療する。その代表的な薬方は、「玄武湯」と名づけられていた。
「玄武湯」は、後漢時代の張仲景の著書になる『傷寒論』にあったが、宋代に印刷技術が開発され、今日我々が手にする『傷寒論』は宋代に出版されたものであるから、宋朝の皇帝の名の玄を避けて「真武湯」と改名されて今日に至っている。
寒冷の病邪が、身体の表裏内外からくるのを予防・撃退する名方である。古くは、正月の屠蘇には、必ず寒を避けるための附子が配合されていた。

トリカブトの種類と成分

トリカブトの仲間は北半球全般に広く分布し、欧州でもアコニット根といい、薬用に供され、中国では100種以上も知られている。わが国でも、カラフトブシ、エゾトリカブト、オクトリカブト、オキブシ、アシブトウズ、カワチブシ、キタヤマブシ、サンヨウブシ、ツクシトリカブト、ヤマトリカブトなど種類が多く、その成分も含有量も千差万別である。
いずれも根にアコニットアルカロイド(0.4〜1.0%)を含む。このアコニチン系アルカロイドは猛毒で、アイヌや北半球の民族は、矢毒として使用してきた。
低毒性のアルカミン型アルカロイドと微量の強心成分を含み、猛毒のアコニチン加水分解によって低毒性のアコニンになり、その毒性は50分の1から2000分の1に低下する。
著者らは、江戸時代に近畿で薬用に供されたと考えられる河内金剛山(カワチブシ)、近江伊吹山(アシブトウズ)、京都比叡山(キタヤマブシ)で、年間一ヶ月ごとに採集した母根、子根について、その成分と毒性の調査を試みたが、三種とも母根、子根ともに各時期によって成分と毒性の移動がはなはだしいことや、花期に毒性が強く、以後、毒性は低下することを知った。
薬用附子は、中国では1000年前の宋時代から今日まで、四川省の一部で、一定のカラトリカブトを栽培し、塩漬け(塩附子)または加熱乾燥(炮附子)して減毒したものが使われているのも道理である。

薬用部位

トリカブトは樹陰の湿地によく自生する宿根性草本で、塊根は円錐状倒卵形で直下し、長さ3〜5cm、毎年側方に同形の子根ができて古い塊根は腐る。晩秋、茎の上部に特有の形をした長さ2〜3cmの碧紫色の美花を開く。
薬用にはこの塊根を使用するが、古来、同一根でありながら、その形で烏頭、附子、側子、烏啄、天雄など種類が多く、その上、附子、烏頭、天雄は応用目標が違っている。
烏頭は外用することが多く、附子より強度の麻痺や疼痛のあるときに使われ、天雄はノイローゼや神経疾患、陰痿、精力減退、強迫観念などに応用され、昔、若武者などが出陣のとき、おびえて腰が立たないようなときに『金匱要略』の名方「天雄散」を酒服させると、勇気凛々として戦場に出ることができたと記されている。
先に述べた成分や毒性の消長や根の発育状況から考えると、烏頭は子根の発育しない開花期前後、附子は開花後母根が枯死した秋末か冬季、天雄は春独立した子根から地上に葉が出た時期に、それぞれ採取したものとするのが至当である。
トリカブトはカブトギクとも呼ばれ、色彩も花形も鑑賞に耐えるので、直立性のトリカブトが古くから栽培されているが、これはこれは中国から渡来したものと考えられる。それは、四川産のカラトリカブトに近似しているからである。

トリカブトの毒性

トリカブトの毒性は、薬用には減毒して使用されているが、誤って根を食べると中毒をおこすから注意しなければならない。
また、根部だけでなく、花にも毒成分がある。長野県下など秋季の蜂蜜には、トリカブトの群落で採蜜したものがあり、それで中毒した例も再三報告されている。
中毒症状は呼吸中枢麻痺、心伝導障害、循環器系の麻痺や知覚及び運動神経の麻痺などである。