今月の話題
今月の話題 キハダ(黄蘗・黄柏)

皮膚・粘膜の炎症に効く血剤 キハダ(黄蘗・黄柏)

・良薬は口にし

 われわれが日常食べている食物の五味の中には、苦味のものは少なく、一方、健康を害した時に飲む薬に、苦味のものが多い。漢方では、苦味の薬物群を苦寒剤と呼んで、これが心臓や血液循環器の疾患、小腸の炎症の補正を図り、その反応は舌に顕著にみられ、肝臓、胆嚢の働きを助け、腎臓、膀胱の働きを活発にする原則があるとしている。
 そこから、古来「良薬は口に苦し」の格言がある。総括して苦寒に属する漢薬は、血剤ともいわれ、牡丹の古血(オ血)を体外に排除する血剤とは対照的に、皮膚、粘膜の表在的炎症を中和し、新しい出血、充血、炎症を緩解する特性を持っている。
近代医薬学では、薬草中のアルカロイドや苦味配糖体などの苦味成分がその有効成分とし、強心、止血、抗炎症、利尿、鎮痛、鎮静などの諸作用があることを科学的に究明しており、古来の経験薬としての和漢薬の効果を実証している。

・有用樹木・キハダ

  キハダの樹皮の黄色の内皮を、古来、日本でも中国でも、黄柏(黄蘗)と呼んで、薬用および染料として賞用してきた。またその材も、辺材は灰白色、心材は灰黄色で堅硬かつ狂いが少ないので、家具や飾板、細工物に応用され、外皮のコルクも利用されている。
 キハダは、日本各地の山地に自生するミカン科の落葉高木で、北海道から本州北部には、樹皮の薄いヒロハキハダが自生する。
 中国でも、河北、四川、旧満州などの東北区に多い有用樹木である。採取は、夏の土用前後に伐採して、すぐその場で輪切りにして幹皮を縦に切り込み、キハダの枝の先を薄く尖らせた棒で、新生組織に沿ってはぐ。
 はいだ樹皮を広げると、この時期ならコルク層と黄色〜黄褐色の樹皮とが容易に分離する。

・黄柏とキハダエキスの薬効

 キハダの水製エキスは、といい、のが創めたと伝えられている。奈良の寺には役の行者が使ったと伝えられる加持井戸があり、さらに陀羅尼経を唱え唱え濃縮したといわれる抽出釜と濃縮釜が残されている。
 この水製エキスにアオキエキスを加えた製剤は、吉野の大峯山、四国の遍路や石槌山、木曽の御嶽山などの行者が、陀羅尼助、陀羅助、百草、などの名で賞用し、全国的に知られた有名生薬製剤である。
 キハダの粉末、または煎剤(1回量4〜5g)や水製エキスは、苦味健胃、整腸、腸内殺菌、消炎薬とし、胃腸薬として広く応用され、熱性下痢、血便、黄疸、瘡瘍や体表の炎症、外傷、切傷、打撲傷、出血、火傷、湯傷などに速効のある極めて重宝な薬である。
 骨折、打撲傷、ねんざなどには外用し、突き眼や眼の充血にはこれで洗眼するとよい。
 古方薬品考の著者・内藤尚賢は「黄柏は寒冷の地に生育するので、その精力は皆皮に在る。故に人の皮膚に主効がある。その気味は極めて苦く寒降であるから、皮間の鬱熱や黄疸を治し、二腸中の結熱を除く。」と、漢薬の血剤中に占める黄柏の効能の特性を象徴薬理的に挙げている。

・キハダの成分と染色

 黄色成分は、苦味質のアルカロイド、ベルベリンとパルマチンで、これが黄柏の有効成分である。そのほかに無色結晶性のオーバクノンとオーバクラクトンやパルミチン酸、リノレン酸とフィトステリンとのエステルが含まれ、火傷や湯ただれに効くのは、この脂肪酸エステルが有効成分とされている。
 ベルベリンは天然の唯一の塩基性色素で、絹や羊毛は微酸性の温湯(50〜60℃)で黄色に、クロームの媒染では鮮黄色に染まる。木綿は、タンニンやアンチモン塩の媒染により黄色に染まる。
 黄柏の黄色は、中国では服色の最上位とされた。我が国でも、古くから貴ばれたことは、天平の古文書に見られ、和紙に染めたものは、石清水八幡宮や春日神社の宣命用紙や、また昔の戸籍簿の用紙などに使われた。富山や秋田では、キハダの葉を生のまま染料としている。